人生は芸術だ
第13回 人生は芸術だ "Life is Art"
「TRENCH COAT (トレンチコート)」
陽が落ちる夕方5時、グラウンドには照明を灯す時刻がくる。肌に感じる外気の温度は10日程前の体感とは明らかに違い、本格的な秋の到来を感じさせる。傍らで元気にトレーニングに励む選手達の姿にも長袖のウェアが目立ちはじめ、次のGAMEを待つ選手はもうベンチコートに身を包んでいる。
この時期を迎えると私はトラディショナルな歴史と深い意味のデティールを併せもつトレンチコートが無性に恋しくなる。
それは大学4年生の時(1974年11月)だった。関東大学リーグの法大戦が終わり、合宿所に戻る東横線で目にした40才を過ぎた紳士が纏うトレンチコートに目を奪われた。以来40才を過ぎたらトレンチコートを纏う。憧れだった。
COATにはステンカラーコート、ダッフルコート、チェスターフィールドコートなど、用途に応じた多くの種類がある。それは本来、防寒や防風、防水を目的とした常に外敵と対峙している機能服だ。なかでもking of COATと呼称されるトレンチコートは多くの変遷を重ねてきた。前身をタイロッケンと名付けられたシンプルなコートは、ボタンがなく袖付けはセットインスリーブ、そしてウェストのベルトを締めるだけの簡易なものだった。
変革は1880年、トーマス、バーバリーが紡ぐ過程で防水液に浸した糸を60度の斜文で織り上げ、極めて撥水性の高い素材により飛躍的に進歩を遂げた事に端を発する。
クリミア戦争では英国軍司令官ラグラン将軍の考案による改良を経て(ラグラン袖とは、運動性の確保、肩、腕を負傷した兵士を素早く手当てする際、袖を切り開く作業を簡易にしたスリーブ)大量生産され、遮風性や防水性、そして装備品を備えたデティールは、第1次世界大戦の塹壕戦でも抜群の威力を発揮した(トレンチとは「塹壕」を意味することでも知られている)。そして多数の犠牲を払ったこの戦争は1920年に終結を迎えるが、戦場で証明された優秀な防水性、そして勝者を象徴する装束はたちまち英国民の心をとらえた。
歴史に裏打ちされたトレンチコートが醸し出す、不変のシルエットは武骨な男の匂いを漂わせている。

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