人生は芸術だ
第14回 人生は芸術だ "Life is Art"
第14回 人生は芸術だ "Life is Art"
小さい針の音
ある田舎の小学校に一人の青年教師がいた。その青年は真実に小さな子どもたちを教えた。しかし青年は立身出世を夢見て都会に出る決心をする。大好きな先生をよく知る子どもたちは少しづつのお金を持ちより、「私たちをいつまでも忘れないで」との思いを込めて懐中時計を贈る。都会に出た青年は時計の刻む音と子どもたちの姿を思い勉学に励む。時計は一分一秒の狂いもなく正確に時を刻み続けた。
ある時、ふとしたはずみで時計の裏側に小さなへこみを作ってしまう。時を経て青年は成功をおさめ、時計を古道具屋に売ってしまう。以来、身分が変わり、服装が変わり、会社を興し、プラチナの時計を持つようになる。しかし彼の求めた高価な時計は何度買い替えても正確に時を刻むことはなかった。ある日彼はプラチナの時計を取り出し、社員たちへため息交じりに「私の時計はいつも3分程遅れる」と話したところ、「私のなんか7分も遅れますよ」とか「私のものは日止まりがしますよ」などと話す社員が続出、しかしある社員だけが「僕の時計は不思議に一分一秒も狂いません」と答えた。彼は時計裏のへこみを発見し、自分が若かりし頃子どもたちにいただいた、時計との偶然の遭遇に驚く、「君、このプラチナの時計と変えてくれ」と懇願するが、社員は「この時計は私が一生懸命働いて、やっとの思いで露店で求めたもので、私にとってはその日から苦楽を共にしてきました。この時計を売ったり、交換をしたりする事はできませんが、あなたが愛してくださるなら差し上げます」と話す。
家に帰り彼は今ままで忘れていたことが脳裏をかすめ、苦学時代の過去を思いだしてゆく、そしてカチカチと秒を刻む音を聞きながら安らかな眠りに入った。
彼はよれよれの袴をはき、すきま風の吹く寒村の教壇に立っていた。
熱心に子どもを見守る彼の顔 。
「みんな大きくなったら、どんな人になろうと思いますか?」
「先生、先生」と競いながら上げるかわいい手。
一人のほほを赤くした女の子が「いい人になります」と答えた。
「いい人間ってどんな人ですか?」と彼は聞く。
子どもは躊躇なく笑顔で「世の中のために働く人になります」と答えた。
子どもの純情さに思わず感動した瞬間に夢から醒めた。
・・・・・・・私は今まで何をしていたのだ。
しばらくの間、カチカチと時を刻む時計の音は無邪気な子供の笑い声に聞こえていた。
この物語は小川未明童話集と名づけられた新潮文庫発刊の一遍を私なりにまとめたものです。
初版が昭和26年11月発行で私と同齢(58才)である。以来平成13年5月には72版を重ね、多くの人々に読まれ、愛され続けてきた本である。28の短遍からなるこの童話集は、子どもが持つ自然な悲しみ、喜び、楽しみ、怒りを世に訴え、次の世代を継ぐ子どもたちの文化を非常に真面目に考えている点にある。
「読書の秋」という
読書をする素晴らしさは人間の生き方の事実を知る事ばかりでなく、価値を知る事の重要性を示してくれることにつながる。
「愛情を以て見れば、凡てのもの、みなそれぞれに美しい」 小川未明 (1882~1961)

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